今となっては、監督を退いてから長い年月が過ぎているので、知らない人も多いかもしれません。しかし、通算868本の通算ホームラン数世界記録を持ち、「世界の王」と言われた22年の現役時代。そして、ジャイアンツとホークスで計19年も監督を務めました。2006年の第1回WBCでは日本代表監督として優勝に導いています。国民栄誉賞は、1977年、当時の福田赳夫総理大臣が、本塁打世界記録を達成した王さんを称えるために創設したのが始まりでした。
そして、その野球人としての足跡と、野球の面白さが伝えているのが、福岡にある「王貞治ベースボールミュージアム」です。
王貞治ベースボールミュージアムへのアクセス
福岡PayPayドームの隣にあるビル、複合エンターテインメント施設「BOSS E・ZO FUKUOKA」の4階にあります(昔は、ドーム内にありました)。
博多の中心地、天神からはバスで行くのが便利です。「天神北」停留所から301番などのバスに乗ります。これは高速道路を通っていくので、バス停の数も少なく、早く着きます。最寄りのバス停からは8分ほど歩きますが、ドームの大きさを感じながら行くのでそんなに苦ではありません。W1番というバスですと、高速道路を下りた後、もっと近いバス停「九州医療センター」に着くことができます。
地下鉄で行くこともできます。空港線で西の方(空港の反対方向)に行きます。降りる駅は「唐人町」。但し、この駅からは20分弱歩かなければなりません。
入場可能な時間帯ごとのチケットをオンラインの前売りで買うことができます。当日、入場直前に買うこともできます。観光などでスケジュールを詰め込んでいる場合は、前売り購入をオススメします。滞在時間の制限はありません。
王貞治ベースボールミュージアムは、二つのゾーンに分かれている
ミュージアム内は、「ヒストリーゾーン」と呼ばれる展示の部分と、「89パーク」と呼ばれる体験型アトラクションの二つに分かれています。料金も別々です。体験型アトラクションの方は、お子さんがいるご家族にとってはハイテクを駆使した中で、野球の楽しさが体験できて、とても魅力的だと思います。私は、ヒストリーゾーンの方だけをじっくり見ましたので、今回はこちらの紹介をしていきます。
ヒストリーゾーンの展示物
2020年に移転、リニューアルオープンした比較的新しい施設です。企画デザイン設計などには、乃村工芸社が携わっており、全体として洗練されたデザインになっています。
入り口から、王さんの人生を振り返るような流れになっています。
こういった個人の足跡を振り返るミュージアムの場合、その時々の使用した道具やもらったトロフィーを時代ごとにずらりと並べる形になりがちです。しかし、ここは違います。メインとなっているのは、その時代ごとのエピソードです。
中学、高校時代はあっさりとしています。ちなみに、王さんは選抜高校野球大会(春の甲子園)の優勝投手でもあります。面白くなってくるのは、巨人入団後、一本足打法を完成させるあたりからです。当時使われていたノートも展示されていました。
もともとは、一時的な練習だったとは知りませんでした。1日1000本の素振りを課して、畳がすごい勢いで擦り減ったという逸話や、振り下ろす感覚を身につけるため、真剣で素振りを行った伝説なども書かれています。こうしたエピソードは、日本語だけではなく、英語や中国語でも表示されています。
王貞治ベースボールミュージアムでは、セイバーメトリックスが効果的
そして、2020年につくられたミュージアムらしい、もう一つの特徴が、セイバーメトリックスの表です。セイバーメトリックスとは、野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法のこと。王さんの現役時代には存在していませんでしたが、王さんの現役時代の成績がどれぐらいすごいものだったのかを表現する方法として、これが選ばれています。
通算868本のホームランの傾向を分析した表もあります。そして、活躍した時代の違う他の強打者と、この数字を媒介することで比較して見せています。王さんの現役時代を知らない、かつ、今は野球が好きだという人に対して、共通言語と機能しています。
王貞治氏の道具、トロフィー、名言
数々の記録やタイトルを残した王さんだけにトロフィーなどもズラリと飾られています。そんなに詳しい説明はなく、一箇所にまとめられているだけです。また、デジタルアーカイブの形でも見ることができます。
通算22年の現役時代と19年の監督生活に、非常に多くの取材を受けてきていますから、自らの残した言葉や周囲の人が残した言葉もたくさんあります。これらが足跡を理解する上で、大きな助けになっています。
王さんが大事にしていた五つの言葉が表になっています。なぜ、あのような立派な足跡を残したのかの一端を感じられます。
努力という言葉が似合う人
子供の頃、私が初めて野球を知って読んでいた本は、小学生向けの野球入門といったものでした。その中で中心的に取り上げられていたのは、当時、すでに球界の顔だった王さんでした。幼い頃のエピソードなども本に書いてあって、中華料理屋の息子として生まれたこと、陸上や卓球にも取り組んでいたこと、竹のバットで打っていたこと、背が小さく「チビ」というあだ名だったことなどは今でも記憶に残っているほどです。ミュージアムを回っていて、そんなことも思い出しました。私の中の王さんのイメージは、「努力という言葉がこれほど似合う人はいない」です。
監督就任以降の展示内容がちょっと寂しくなるところは少々気になりますが、全体としては、エピソードとデータを駆使して、野球人、王貞治の魅力を存分に楽しめます。親子の会話も弾みそうです。王さんのことは知らなくても、野球が好きな人なら是非行ってみるべき場所だと思います。