世界には様々なスポーツミュージアムがあり、私もアメリカや欧州などで訪れてきたことは、このブログにも書いてきています。
数あるスポーツミュージアムの中でも、台湾の野球殿堂博物館「棒球名人堂」は、立地も良くなければ、建物もとても珍しい形をしています。
私はネット記事で、その存在を知り、写真を見た時から心惹かれました。外観が巨大な野球の硬球の形をしていて、建物の前には、ちょっとくたびれた感じの野球場があります。
野球を本当に愛している人でなければ、こんなに思い切った建物はつくれないだろう、と思いました。
2024年8月、ようやく現地を訪れることができました。そして、その直観が当たっていたことがわかりました。
棒球名人堂へのアクセス
棒球名人堂は、台北市の隣、桃園国際空港がある桃園市の郊外にあります。
私は台北駅から国際空港方面に向かうMRT桃園空港線(鉄道)に乗り、空港から先に更に伸びている線の終着駅、老街溪まで行きました。約1時間20分の乗車です。台北ー桃園間で高速鉄道を利用し、MRTに乗り換えると約50分に短縮できます。
老街溪駅は、桃園市の中心地に近いところにあります。ここからバスを利用すると迂回して、1時間以上かかってしまうので、私はUber Taxiを使いました。これだと、言葉が分からなくても、目的地を間違えることがありません。車窓から見える街並みは途切れることなく、約25分乗っていると、着きました。料金は、455台湾ドル(約2000円)でした。
棒球名人堂は、名人堂花園大飯店というリゾートホテルの一部になっています、一泊2、3万円するような立派なホテルです。きれいな庭があったり、ロビーも広々としています。
名人堂内に台湾野球の歴史が刻まれているのですが、このホテルを経営する企業グループ、兄弟大飯店を率いる洪騰勝氏が野球をこよなく愛していたのです。この場所は先に野球場があり、かつてこの企業が持っていたプロ野球チーム、兄弟エレファンツの練習場だったそうです。
洪氏は、1989年に発足した「中華職棒連盟」、つまり台湾プロ野球リーグの創設にも深く関わっていました。チームの選手が関わる八百長事件が起きて、深刻な状況になった2013年に、プロ野球チームを手放してしまうのですが、野球への愛は変わりません。2019年に、棒球名人堂を併設したホテルを建てました。
驚き!入場無料で楽しめる 目を引く巨大な野球ボールの中は?
棒球名人堂は、ホテルに泊まらなくても、無料で見学することができます。
一か所だけの専用エレベーターに乗って、7階に上がります。そこから降りてくるのが、お勧めの見学ルートです。
エレベーターを出て、左を向くと、すぐ入り口が見えます。右手にあるロビーもおしゃれで、野球をモチーフにしたアート作品も飾られています。
外観が野球のボールの形ですから、中のフロアも円形になります。
円の中心に近いところは殿堂入りした年ごとに、その人物のレリーフが並べられています。氏名や実績の他に、ニックネームも紹介されているところが面白いです。台湾の野球殿堂は2014年から始まり、初年度には洪騰勝氏が選ばれています。翌2015年には、日本で生まれ育ち、ホームランの記録をつくった王貞治氏が選ばれています。2019年には、中日ドラゴンズで活躍した郭源治氏、翌年には、ロッテでプレーした荘勝雄氏、西武ライオンズの黄金時代を支えた郭泰源氏も名を連ねています。
そして、私が現地を訪れた2024年には日本統治下の台湾で、嘉義農林学校(通称"KANO")の野球部監督として1931年甲子園で初出場ながら準優勝に導いた近藤平太郎氏が殿堂入りしました。この話は映画にもなっています。また、ニューヨーク・ヤンキースなどのメジャーリーグでプレーした王建民氏も同じ年に入りました。
円の外周部分には使用されたユニフォーム、バット、グローブなどの用具、トロフィーや新聞記事なども選手ごとにずらりと並べられています。これだけの貴重な品々を丁寧に集めていることに驚きます。
こうした貴重な展示物を見ながら、自分の記憶に残っている選手たちの姿を思い出す。あの時の自分はこうだったなとか、憧れて野球をしたなとか、あの試合はこんな状況で見たな、などと思い出すこと。これが殿堂博物館の大きな楽しみです。また、自分が生まれる前に活躍した選手や、全く知らなかったかつての名選手について学ぶことができるのも、ファンにはたまらない体験です。
この博物館は、全体的に説明は簡潔で、モノを見せることに徹しています。
私は、じっくりと一つ一つ見て、思い出したり、学んだりして、2時間以上も滞在してしまいました。ホテルの宿泊者で、野球に特に興味がない人も来ているので、ざっと見るだけだったり、写真をちょっとだけ撮ってすぐにいなくなってしまう人の方が多かったです。ちょっともったいないような気もしましたが…。
家族で楽しめる 体験型展示で野球の魅力を再発見
全てを見終わった後、外周のスロープを下って、6階に降ります。
殿堂スペースと異なり、イラストや映像を使ったカジュアルな雰囲気に変わりました。野球というスポーツを紹介しています。
グローブに手を入れて、映像に合わせて、ボールを受ける感覚を味わえるものがありました。
グローブ、バット、ボールの製造工程を動画も使ってみせる。
審判、記録係、トレーナーなどのお仕事紹介動画も。
ここまであると、野球を知らない子供でも楽しめる感じがします。そして、ここまで細部にこだわっている展示から、野球への愛が、ひしひしと伝わります。
スヌーピーも登場! よく見ると実は…
外周のスロープを使って、5階におります。世界的に有名な漫画、Peanutsのキャラクターたちがお出迎えです。良く知られたキャラクターを見ているだけでも、楽しくなります。
野球博物館は終わったのかなと一瞬、思ったのですが、よく見ると、スヌーピーやチャーリー・ブラウンなどのキャラクターを使いながら、野球をモチーフにした小さなアミューズメントパークになっています。
バッティングセンターまであります。
Peanutsの漫画から引用した、野球の名言コーナーまでありました。
人気キャラクターに触れられる場として、そこだけでも十分に楽しませています。キャラクターとの写真を沢山撮っている人も見ました。しかし、実のところは、世界的に有名なキャラクターを使ってでも、野球に親しんでもらおうという中身なのです。執念すら感じました。
感じる熱い想いと未来への継承
ボールの形をした部分の展示を存分に楽しんだ後は、屋外の野球場にも行ってみました。改めて見ても、変わった建物です。こんな幕も張られていました。
台北ドームを訪れた時の記事の冒頭に「2024年は、台湾プロ野球が熱い」と書きましたが、ここに行って、そこに至るまでには、こうした野球の歴史の積み重ね、先人たちの奮闘があったことを感じました。そして、殿堂として残し、次世代に継承していくことの重要性もよくわかりました。
決して行きやすいとは言えないこんな場所まで足を運ぶほどのファンなら、きっとこのありがたみが分かるはずです。