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“静けさ”が響く、阪神ファンの新たな聖地 「ゼロカーボンベースボールパーク」

2025年3月、阪神タイガースが二軍の新しい本拠地として「日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎」をオープンしました。「ゼロカーボンベースボールパーク」という名前が示すように、環境に配慮した次世代型の球場です。一見すると“意識高い系”の取り組みにも感じられ、「阪神ファンに合うのだろうか?」と疑問を抱いていましたが、その答えを確かめようと足を運んでみました。

アクセス:最寄駅から徒歩5分の好立地

最寄駅は、阪神電鉄「大物(だいもつ)」駅。阪神尼崎から東に一駅でアクセスできます。乗り込んだ車両の中で、早くも森下選手の話題が聞こえてきました。ユニフォーム姿のファンや、子ども連れのファミリーも見かけます。一軍戦が行われる甲子園とは違い、ここでは間近で選手の姿を楽しめる“距離の近さ”が魅力です。

ホームに出た瞬間から始まる“体験”

駅のホームからすでにスタジアムへの誘導が始まっており、壁や通路はカラフルなデザインで彩られています。描かれているのはタイガースの選手や球団ではなく、ゼロカーボンをテーマにした生活に密着したアドバイス。「冷蔵庫に物を詰めすぎないようにしよう」といったエコメッセージが並びます。

球場は、梅田方面と難波方面の線路が分岐する三角形の土地に建てられており、隣には日鉄鋼板の工場があります。専用の駐車場はなく、電車での来場が前提です。でも、それがこのスタジアムのコンセプトそのものでもあります。「ゼロカーボン」を掲げ、電車移動=エコライフを促す仕組みになっています。

場外にはベンチや日陰スペースも

最寄駅から徒歩5分の好立地。スタジアムに到着すると、まず目に入るのは、入場口となっている大きな階段です。そして、右手には円形の広場があります。その周辺に座って休む人もおり、ゆったりとした雰囲気が漂います。階段の下には、ここでしか買えない限定グッズを扱うショップもあります。

三塁側スタンドの下には広めの日陰スペースが確保されており、チケット売り場やイベント受付もこのエリアに集約。真夏の試合でも一息つける場所があるのは、嬉しいポイントです。また、球場の外周には多くのベンチが設置されており、快適に過ごせる工夫が随所に見られます。

選手を間近に感じられる動線

一塁側スタンドの外側では、選手が室内練習場から球場へ向かう導線が歩道橋になっており、ファンとの距離がとても近いのが特徴です。「頑張って!」「お疲れ様!」と声をかけるファンの姿も見られ、写真・動画撮影のベストスポットになっています。

球場限定メニューもあり

スタジアムグルメも見逃せません。特に人気を集めていたのが、ここでしか味わえない「虎風荘カレー」。選手寮で提供されている味に、長い列ができていました。さらに、平田勝男二軍監督にちなんだ「平田勝男(鰹)の尼崎あんかけチャンポン×ハンバーグ弁当」など、阪神ファンの心をくすぐるメニューも用意されています。ビールの売り子さんも巡回しており、観戦の楽しみがぐっと広がります。

控えめな演出、だからこそ感じる“音の豊かさ”

試合前にはチア2人とマスコット・コラッキーによるミニパフォーマンスがあり、自然と会場が盛り上がります。スタメン発表の女性アナウンスは落ち着いた声で、どこか甲子園を思わせる心地よさがありました。

一方で、トランペットや大旗など、応援団のリードはありません。球団が音楽やスクリーンで応援を促すこともなく、最初は少し物足りなさを感じました。しかし、次第にその静けさの中で、「音の豊かさ」に気づかされます。

ミットに収まる捕球音、芯をとらえた打球音、詰まったときの独特な音、そして両軍ベンチから飛び交う声。その一つひとつが、くっきりと聞こえてきます。五回終了時にはコラッキーとチアによる「コラッキーダンスタイム」で会場はひと盛り上がり。七回攻撃前のラッキーセブンではファンファーレが響きますが、ジェット風船はなし。ファンは静かにタオルを振るだけです。

派手さこそありませんが、心にじんわりと残る演出が続き、その静けさの中に、阪神ファンの熱い想いが詰まっていました。

“環境”が主役の、新しい球場体験

イニングの合間にはスクリーンに「ひとり3つのエコで、未来を変える」といったメッセージが流れます。まるで球場全体が「ゼロカーボン」というテーマで統一された一つの展示空間のようです。

スタジアム全体から感じられるのは、「環境」そのものが主役という、新しい観戦体験。熱さはそのままに、スマートに楽しむ“新しい阪神ファン”の姿が、ここにはありました。

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