その他 スタジアムツアー

異国の社交場で感じた優雅な時間 聖地ローズ・クリケット・グラウンドの秘密

 2023年10月16日、国際オリンピック委員会の総会において、2028年夏のロサンゼルスオリンピックの競技にクリケットなどを追加することが決まりました。
 日本では全くと言っていいほど知られていませんが、イギリスが発祥で世界100か国以上で親しまれている文句なしのメジャースポーツです。競技人口ではサッカーやバスケットボールに次ぐくらいで、20億円稼ぐようなプロ選手もいたりします。

 そんなメジャースポーツは、本場で知るしかありません。2020年1月にさかのぼりますが、ロンドン市内にあるローズ・クリケット・グラウンドのスタジアムツアーに参加していました。このブログでも、イギリスのサッカースタジアムなどを訪れたことを書いていますが、その遠征の時に、一つ入れていたのです。

 ローズ・クリケット・グラウンドは、クリケットの聖地と呼ばれています。
1814年から、200年以上使われています。収容人数は31100人で、クリケット・ワールドカップの決勝が五度も開催されています。

ローズ・クリケット・グラウンドへのアクセス

 ロンドンの中心街から見て、北西の方角にあります。ロンドン動物園などがあるリージェンツ・パークに隣接しています。最寄りの地下鉄駅はジュベリー線のSt. John's Woodで、そこから歩いて10分ほどです。ちなみに、ここはビートルズで超有名なアビー・ロードの横断歩道の最寄り駅でもあります。都心にある、この立地条件の良さが、この競技の価値を示しているような気がしました。

ローズ・クリケット・グラウンドには、ミュージアムも併設

 ツアーの集合場所は、ミュージアムとなっています。予約をした時のメールに、ミュージアムを見学するためにツアー開始時刻の30分前入りが推奨されていました。常設展示と企画展示があり、貴重な品々がずらりと並べられています。文章による説明も多く、私は30分かけても全部見切れませんでした。

企画展示は、「ゲーム」でした。ボードゲームからビデオゲームまで

 私がスタジアムツアーに参加した時は、月曜の朝10時にもかかわらず、20人ほどのグループが二つありました。参加者は、オーストラリア、インド、シンガポール、パキスタンなどから。海外のクリケットファンからすると、聖地巡礼のようなものです。
 私が「日本から来ました」と言うと、ガイドさんは怪訝な顔をしていました。例えて言うなら、野球が盛んでないインドからの観光客が甲子園球場のスタジアムツアーに参加しているようなものです。こんな居心地の悪いスタジアムツアーがあったでしょうか。でも、そこは知りたい欲求が上回りました。
 ツアーの始まりはミュージアムの中で、(私以外の)参加者の出身国に関係のある展示品に、ガイドさんから説明が加えられてきました。

ローズ・クリケット・グラウンド 命名の理由

ローズというのは、創設者であるトーマス・ロード氏にちなんだものです。施設の所有者は、メルボーン・クリケットクラブという民間クラブ。「ここの会員になるのは、29年待ちです」と言うガイドさんから情報に驚きの声が上がります。

ローズ・クリケット・グラウンド スタンドの写真

 グラウンドは楕円形で、天然芝の緑とスタンドの白が映えます。

 一部、古い建物を残しつつ、大胆に改築した部分もあります。それでいて、伝統を感じさせるような全体のトーンは統一されています。特に、パビリオンと呼ばれる部分は、1889年から90年かけてつくられたものが、象徴として残されています。デザインも個性的です。

 新しいものでは、1999年のワールドカップに間に合うようににつくられた、メディアセンターの大きさに驚きました。約120名分の記者席が設けられ、テレビやラジオの中継をの席もありました。収容できるメディアの多さから、この競技の注目度がわかります。

ローズ・クリケット・グラウンド アート作品 ロッカールームの写真

 建物の中を案内されると、廊下には、絵や写真が数多く飾られており、さながら美術館のようです。

 ホームチームとビジターチームの扱いに、差がないことに驚きました。例えば、ビジター側の廊下や階段には、ビジターの選手の絵だけが飾られています。完成品を見ただけでは分かりませんが、どのような絵を描くかを決めて、制作するには結構な年月がかかります。もちろん、お金もかかります。贅沢、極まりありません。また、ビジターのチームのロッカールームの壁には、ここで達成されたビジターの選手の記録がズラリと並べられています。

 選手のロッカールームには大きなダイニングセットがあり、プレーするための場という感じがしません。ましてや、相手と戦うという感じがしません。美術館のような廊下の雰囲気も相まって、競技場やスポーツ施設というよりは社交場です。

ローズ・クリケット・グラウンドのバンケットルーム

 競技の特性を考えると、そうなるのでしょう。テストクリケットという方式では、試合の長さは4、5日に及び、毎日、昼食とティータイムの休憩を含めて7時間ほど続きます。言うまでもありませんが、他のスポーツに比べて、圧倒的に長いです。ロッカールームにダイニングセットがあるのは、その休憩時間用です。スタジアムツアーの中では、ロッカールームで起こった様々なエピソードも伝えられました。長い伝統が感じられました。

 見ている方も、何時間も滞在するわけです。したがって、ゆっくり過ごせるバンケットルームもありました。その室内にもアートが飾られています。大きなテーブルに、たくさんの人が座れるようになっています。こうした部屋に入るにはドレスコードがあり、男性はジャケットとタイ。ジーンズやトレーナーはNGとされています(一般のスタンドで見る分には、ドレスコードはありません)。

 紛れもない社交の空間です。青い空、緑の芝生。プレーする選手たちを眺めながら、ゆったりと過ごす。毎日、あくせく働かなければならない人の時間の使い方ではありません。このグラウンドのメインスポンサーはアメリカの銀行、JPモルガンでした。ここに集まるのは、優雅でリッチな人たちですから、金融機関がスポンサーにつくのもわかるというものです。

ローズ・クリケット・グラウンド バルコニー席

 スタンドには、バルコニー席と小さな部屋がセットになった部分もありました。似た施設は、メジャーリーグの球場やNBAで使われているアリーナ、ヨーロッパのビッグクラブのサッカースタジアムにもあります。企業や個人のお金持ちが年間契約をして、ゲストを招き、交流を深める場として使われるものです。

 そのルーツになっているのが、このグラウンドにあるような社交場ではないでしょうか。今は室内の音響が良くなったり、窓から見るだけでなく、テレビスクリーンで映像を見られたりする。スポーツを見ながらの社交場が螺旋状に進化したものと考えられます。

 ツアーを終えると、ここを競技場やスポーツ施設と言ってはいけない感じがしました。こんな別世界は、もっと早く知るべきでした。

-その他, スタジアムツアー
-, , , ,

S