「こんなに近くで見ていいのか」
今回の卓球のTリーグの会場で最初に思ったことです。
選手の表情も、ラリー中の息遣いも、はっきりと見える。スマホでも十分に撮れるほどの近さ。サッカーや野球ではあり得ない距離です。この"距離"そのものが、卓球という競技の大きな価値だと感じました。
今回訪れたのは、京都カグヤライズのホームゲーム。クラブが主導してつくる試合はどんなものか。会場の設えも含めて気になっていました。
スポーツ施設ではない会場が生む、独特の体験
会場はKBSホール。京都御所の西側にある放送局のホールで、スポーツ施設ではありません。
京都市営地下鉄「今出川駅」から南へ徒歩10分。道は分かりやすいのですが、会場の外に出ているのぼりを見ても、卓球の試合が行われていることが一目では伝わらない。「選手の顔でも載っていれば、通り過ぎる人が足を止めるきっかけになるのに」と思いました。
開場は10時30分。ただ、この情報も事前には見つけにくかった。クラブのXを見てもタイムスケジュールは載っておらず、現地で配られたパンフレットで初めて分かりました。初めて来る人ほど必要な情報が、来場前に届いていない。この一点だけでも、観戦のハードルは上がってしまいます。
目の前で起きるプレーが、そのまま体験になる
一方で、会場に入って席に座った瞬間、そのハードルは一気に下がります。

どの席からでも、選手の顔がはっきり見える。ラリーのスピードだけでなく、間合いの取り方や視線の動きまで伝わってくる。競技を"観る"というより、"感じる"に近い体験です。地声で選手に声をかけられるくらいの距離、と言えば伝わるでしょうか。
満員でも足らない一体感
この日の来場者は453名で満員御礼。会場はしっかり埋まっていました。
ただ、客層を見ると白髪の方が多く、子ども連れの親子もいる一方で、団体客や若い層のグループは少ない印象です。紫のユニフォームを着ている人も多くはなく、視覚的な一体感はまだこれからという段階でした。
応援は「京都 チャチャチャ、カグヤ チャチャチャ」というシンプルなもの。誰でもすぐに合わせられる設計は良い。ただ、配られたミニメガホンの響きがやや弱く、会場全体を包み込むような熱量には届いていませんでした。

"距離"を活かしてこその交流
菅沼選手は試合前にサーブレシーブの体験コーナーを開いており、子どもからおじさんまで参加していました。やや経験者向けの内容だったので、初心者にも開かれていればさらに広がりが生まれそうです。
一方で、試合前の選手インタビューは競技と結びつきが弱い話題が多く、コメントもまだ拙い。もったいないと感じました。卓球は個人競技です。なぜこの競技を選んだのか、何を目指しているのか。選手一人ひとりの話を掘り下げれば、共感は一気に広がるはずです。
この会場で一番印象に残ったのは、試合後の光景です。
選手やコーチが、自然にファンと会話をしている。卓球選手は相手の動きを感じ取ることに長けているせいか、来場者との距離の詰め方が自然でした。他の競技ではなかなか見られない光景です。
強い武器はある
全体として、会場にはマニアックな空気がありました。卓球を知っている人には深く刺さる。ただ、まったく知らない人を巻き込む設計には、まだ届いていない印象です。
試合時間は短く、間は音楽やコールでテンポよくつながれていく。選手が間近で見られる分、競技だけでなく、存在感そのものが伝わってくる。この競技には、他では替えの効かない体験があります。
建物の規模でも、演出の派手さでもない。 選手と話せる距離で観る。それだけで、十分な一日になる。
京都カグヤライズには、その武器が最初からあります。